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横浜地方裁判所 平成6年(ワ)3899号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、六万七七七円及びこれに対する平成五年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二は原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  右一は、仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告

(一)  被告は、原告に対し、二〇万二五九一円及びこれに対する平成五年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行宣言

2  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  平成五年三月二〇日、神奈川県横浜市緑区長津田町五五〇番地先の東名高速道路横浜インターチエンジ付近(以下「本件事故現場」という。)において、被告運転の普通貨物自動車(以下「被告車」という。)と原告運転・所有の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)の右前輪上部フエンダー及び前部バンパーとが接触し、原告車は損傷を受けた(この接触事故を、以下「本件事故」という。)。

(二)  原告は、右損傷の修理のため二〇万二五九一円の出捐を余儀なくされ、同額の損害を被つた。

(三)  本件事故は、本件事故現場付近が渋滞中で原告車が一時停止していたところ、被告が、進路左直近に原告車が停止しているのを見逃し、被告車を原告車の前に右側から強引に割り込ませた過失により発生したものである。

(四)  よつて、原告は、不法行為に基づく損害賠償として、被告に対し、二〇万二五九一円及びこれに対する本件事故日の後である平成五年四月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

2  請求原因に対する被告の答弁・主張

(一)  請求原因(一)は認める。同(二)は不知。同(三)は否認する。

(二)  本件事故は、次のとおり、原告の前方不注意によつて発生したもので、被告には何らの過失もない。

(1) 被告は、被告車を運転し、本件事故現場付近の料金所を通過し、高速道路の出口へ向かつたが、事故当日は祭日で、辺りは相当混雑し渋滞していたため、その速度はいわゆるのろのろ運転であつた。

(2) このような状況にあつたとき、原告車(ジヤガー。左ハンドル)が後方から被告車(いすずエルフ。小型トラツク)の左側荷台付近に強引に割り込んできた。原告車は左ハンドルであり、原告は助手席の男性と話をしたり、電話で話をしたりして余り前方を見ておらず、まして右側など良く見ていなかつた。被告車の助手席に同乗していた訴外棚橋正裕(被告の兄。以下「正裕」という。)がドアミラーを見て割り込みに気づき、助手席の窓を開けて原告にハンドルを左に切るように注意した。しかし、原告車は既に右側にハンドルを切つていたため、そのまま被告車の左後部の荷台下に原告車の前部が接触した。

(3) したがつて、本件事故は、原告車が先行していた被告車に一方的に接近してきて接触したために発生したもので、その原因は原告の前方不注意にあり、被告には何らの過失もない。

(三)  仮に、被告に何らかの過失があつたとしても、原告にも前方の注視等を怠つた過失があつたから、本件事故による原告の損害については過失相殺がなされるべきである。

3  被告の主張に対する原告の反論・答弁

(一)  被告の主張(二)について

(1) 被告は、被告車が右ハンドルのため、その左直近に原告車が存在することを不注意にも見逃したものである。運転席の位置関係からいつても、被告車の運転席は右側で高い位置にあり、その左側の直近車両は見えにくいのに対し、原告車は左ハンドルで運転席も低く、自車の右直近前方に割り込んでくる車両を十分観測できる位置にあるのであるから、原告が被告車に気づかずにこれに接触するということは考えにくいところである。また、原告は、昭和四九年八月一九日に自動車運転免許を取得して以来、ほとんど車関係の仕事に従事し、ロールスロイスの日本総代理店コーンズ・アンド・カンパニーに一二年在職するなど、超高級車を取り扱つてきており、極めて慎重な運転を習慣づけられているので、本件のような状況下において原告車を被告車に接触させるとは考えられない。これは、原告車の損傷箇所の写真を詳細に見れば分かることである。すなわち、原告車の右前輪フエンダーの傷はその後方から前方に向けて生じたものであることが明らかであるし、右前部バンパー末端の傷も後方から接触を受けた際に発生したものであることが明らかである。

(2) 被告は、助手席にいた正裕がドアミラーを見て原告車の割り込みに気づいた旨主張するが、虚偽である。ドアミラーは運転者から後方を確認する角度に設置されているのであるから、これによつて助手席から後方の車両を確認することはできないはずであるし、被告車のような軽トラツクの同乗者が左側直近に存在する車両を確認することは極めて難しいことというべきであるからである。

(二)  被告の主張(三)について

争う。

三  証拠関係

記録中の書証目録・証人等目録のとおりである。

理由

一  請求原因(一)は当事者間に争いがなく、同(二)は、原告本人尋問の結果により成立を認める甲第五号証及び同本人尋問の結果によればこれを認めることができる。

二  そこで、同(三)及び被告の主張(三)について判断する。

1  当事者間に争いがない請求原因(一)の事実、原本の存在・成立に争いのない甲第一号証、弁論の全趣旨により原本の存在・成立を認める甲第二号証、被告車及び原告車を撮影した写真であることに争いのない甲第三号証、被写体について争いのない甲第七号証、原告本人尋問の結果により成立を認める甲第八号証、証人棚橋正裕の証言により成立を認める乙第一号証、第二号証、同証言及び本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告車と被告車は、相前後して、東名高速道路横浜インターチエンジの料金所を通過し、いずれも横浜新道方面への一般道に出ようとしていたこと、当時、右一般道へ至る出口付近は、横に広い料金所の幾つものゲートを出た車両が一斉に狭い部分に殺到して混雑を極め、各車両は前車の動きに即応して一寸刻みに進むことを余儀なくされる状態にあつたこと、原告車と被告車は、原告車が左側、被告車がその右側の隣り合わせとなり、被告車が若干原告車に先行した状態で、いわゆるのろのろ運転で進行しているうち、原告車が被告車に接近しすぎて接触の虞れが生じたこと、被告車の助手席に乗つていた正裕はこれを察知し、窓を開け、原告車に向かつて「左にハンドルを切れ」といつたことを叫んだが、原告はこれに気づかず、また、すぐ左隣には他の車両もあつて左にハンドルを切ることができる状況にもなかつたこと、このような状態にあつたとき、被告車の前車が前に進んだため、被告はその分だけ被告車を前進させたところ、被告車の左後部荷台下の部分と原告車の右前輪上部フエンダー及び前部バンパーとが接触し、本件事故に至つたこと、以上の事実が認められる。甲第二号証、第八号証、乙第二号証、証人棚橋の証言及び原告本人尋問の結果中にはこの認定と抵触するかのような部分があるが、それを除く部分と前掲その余の証拠に鑑みるとにわかに採用することができず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。また、右に認定した事実関係を超えて前記各主張についての判断の帰趨に影響を及ぼすべき事実を認めることもできない。

2  右認定の事実によれば、本件事故は、要するに、多数の車両が幅員の広い部分から狭い部分に相接して向かつた場面での接触事故であり、このような場面に遭遇した車両の運転者としては、互いに、他の車両の進行を妨げたり、それと接触したりすることのないように自車を運転・走行させなければならない注意義務を負つていることはいうまでもないところ、被告は、被告車と原告車との位置関係からすれば、被告車をそのまま進行させるにおいては原告車と接触する虞れがあつたにもかかわらず、前車が前に進んだことに即応して漫然自車を進行させたため、原告車との接触事故を招来したものというべきであり、かかる観点において被告に本件事故の発生について過失がなかつたとはいえない。被告は、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を免れない。

しかしながら、本件事故の発生については原告にもまた多大の過失がある。すなわち、原告は、自車よりも被告車が先行していたのであるから、渋滞中の車両の全体的流れの動向を踏まえ、予測される被告車の動静に応じた運転方法をとるべきであつたにもかかわらず、これを怠り、漫然、後方から自車を被告車に寄せすぎたため、被告車が全体的流れに即応して前進した際、左にこれを避けることができず、本件事故のやむなきに至つたものというべきである。

原告は、「被告の主張に対する反論」において縷々主張するが、前掲甲第三号証によつて認められる原告車の損傷部位の状況から直ちに原告主張のような結論を導くには至らないし、その余も、仮にそのような事情があるとしても、未だ右の認定・判断を動かすには足りない。

3  したがつて、本件事故は、被告と原告との過失が相俟つて生じたものというべきであり、その過失割合は、右の各過失の内容・程度に照らすならば、被告・三、原告・七と認めるのが相当である。

4  右の認定・判断の限度で原告・被告の各主張は理由があることになる。

三  以上によれば、原告の請求は、被告に対し、六万七七七円(円未満、切捨て)及びこれに対する本件事故日の後である平成五年四月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、その余は失当である。

よつて、民事訴訟法八九条、九二条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 根本眞)

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